コバノショウジョウソウ Euphorbia dentata Michx. と誤認していた個体群の再検討 ─ 埼玉県三郷市における Euphorbia davidii Subils 相当個体の成熟種子形態

埼玉県三郷市で採集された Euphorbia davidii 相当個体の成熟種子8粒を、5mm方眼紙上に並べた逆光気味の観察写真。表面の不規則な低い疣状突起と、右下寄りの一粒に淡色の種阜が見える トウダイグサ科

コバノショウジョウソウだと思っていた草の、種子を見る

埼玉県三郷市で、コバノショウジョウソウ Euphorbia dentata だと思って見ていた草がある。

最初は、それほど疑っていなかった。

葉は変異が大きい。鋸歯の出方も、葉の幅も、個体によってかなり違う。この仲間を葉だけで追いかけても、あまり気持ちのよいところには着地しない。

ところが写真を見返しているうちに、近縁の Euphorbia davidii が候補に入ってきた。

問題は、どうやって確かめるかだった。

私はこの場所では、植物を抜かない。切らない。移動しない。

そこで、種子が自然に落ちるまで待つことにした。

種子が落ちた

9月17日。

株元を見ると、裂開した蒴果の破片と一緒に成熟した種子が落ちていた。

拾ってみると、黒褐色の小さな種子には、かなり粗い凹凸がある。

一粒だけでは分からないので、複数粒を見る。どれにも同じような彫刻がある。

さらに一粒を少しずつ転がして、違う方向から撮影した。すると、見る方向によって丸く見えるだけではなく、平らに近い面と、その境界になる稜があることが分かった。表面の突起も、細かく均一に並ぶというより、大きさや配置が不規則だった。

種子の端には、淡黄色の付属体がある。種阜(caruncle)という。最初は「この黄色いものは何だ?」から始まったが、確認すると、ほぼすべての成熟種子についていた。

0円で測る

ノギスは持っていない。

代わりに使ったのが、以前もらった資料についていた方眼紙と、一円玉だった。

一円玉の直径20mmを画像上の基準として、方眼紙上で撮影した成熟種子10粒を画像計測した。得られた値は、次のとおりである。

  • 種子長軸:2.4–2.7mm(平均2.56、n=10)
  • 種子短軸:2.2–2.5mm(平均2.43、n=10)
  • 長さ/幅:約1.05(ほぼ等軸)
  • 種阜幅:0.7–1.0mm(平均0.88)

ここでは少し失敗もした。

最初の画像計測では、種子幅を1.6–2.1mm程度と読んでしまった。これなら E. dentata の記載値(幅1.7–2.1mm)にかなり近い。いったん E. davidii という見立てを後退させた。

しかし、種子を転がして確認すると、最初に測っていたのは同じ方向の「幅」ではなかった。断面が四角に近いため、置き方によって「幅」に見える寸法が変わる。向きを揃えて撮り直したところ、幅は2.2–2.5mmとなった。

小さな種子では、どちらを向いているかだけでも数字が変わる。これは今回の観察でいちばん分かりやすい失敗だった。

一度捨てた判別軸

照合に入る前に、途中で外した判別軸のことを書いておく。

作業の途中まで、私は蒴果表面のテクスチャ、つまり「davidii は平滑、dentata は疣状」という区別を判別軸の一つとして仮置きしていた。

しかし、分類学的記載に戻って読み直すと、この二分は支持されなかった。Mayfield によるアルゼンチン産新種記載論文(Darwiniana, ns 12(1): 162–169, 2024, DOI:10.14522/darwiniana.2024.121.1237)でも、FNA vol.12 の E. davidiiE. dentata の記載でも、両者の蒴果はいずれも glabrous(無毛)と記載されているが、蒴果表面の「平滑/疣状」を両種の判別形質とする記述は確認できなかった。

判別軸を一本外すことになる。少し不安になったが、Mayfield 2024 も、このグループの識別では種子形態がもっとも強い証拠になると述べている(p.165)。つまり蒴果表面を外して種子形態に集約することは、私の都合ではなく原典の議論の方向と一致している。

軸は、種子の寸法・断面・表面彫刻(背側の横畝を含む)・種阜、の4つに整理し直した。

対抗候補が3つに増える

もう一点、照合の前に確認したことがある。

当初は E. davidiiE. dentata かの二者択一で進めていた。しかし、この二者択一だけでは、比較対象として十分ではないことが分かった。

Mayfield は1997年の学位論文の段階で、アルゼンチンで歴史的に E. dentata として扱われてきた標本群の一部を未記載種 “E. subilsiae” として認識しており、2024年の論文でこれを新種 Euphorbia subilsiae として正式記載した。同論文の taxonomic history 節によると、Subils(1977, 1984)や Marchessi et al.(2011)がアルゼンチン産 E. dentata として扱ってきた標本の少なくとも一部は、Mayfield の分類では E. subilsiae に当たる。Mayfield は同時に、E. dentata をアルゼンチンに自生しない種と結論し、E. davidii を同国では recently introduced として整理し直している(Mayfield 2024)。

したがって、私が三郷の種子を照合する相手は、二者ではなく三者になる。二者択一を再検討する過程で、比較対象として E. subilsiae が第三の分類群として加わる、という位置づけである。ここから「日本の三郷個体にも subilsiae の可能性がある」までは踏み込まない。あくまで形態比較上の対抗候補として並べる。

三種の記載を並べる

Mayfield 2024 と FNA vol.12 の記載から、4軸を並べると次のようになる。数値は Mayfield 2024 本文(E. subilsiae)と FNA vol.12(E. dentataE. davidii)による。

形質E. subilsiaeE. dentataE. davidii
種子長軸2.7–3.1mm2.1–2.7mm2.4–2.9mm
種子短軸2.0–2.4mm1.7–2.1mm2.2–2.9mm
全体形oblong-ovoid(縦長)、narrowly pyramidalovoid、rotund(丸みのある形)broadly ovoid、about as long as wide
断面鈍い四角形rounded(丸みのある移行)angular(角張った稜)
表面彫刻不規則な鈍い突起、背側中央より下に明瞭な横畝が腹側まで回り込む均一で細かく鋭い彫刻、背側横畝を欠く不規則に配置された低い疣状突起、または不明瞭な横列
種阜0.4–0.5mm、U字形 umbonate0.4–0.6mm0.9–1.1mm、reniform(腎形)
染色体数n=28(2n=56)2n=282n=56

出典:Mayfield 2024(subilsiae 種子は本文 p.163–164、subilsiae 染色体は p.164)。davidii と dentata の記述は FNA vol.12 E. davidiiFNA vol.12 E. dentata による。dentata と davidii の相互の判別表現、および E. dentata が背側横畝を欠くことは、Mayfield 2024 本文 p.165 の議論に依拠する。

なお種阜の扱いには、資料間の状態の違いがある。Mayfield 2024 本文 p.165–166 は、subilsiae と対置する文脈で E. dentataE. davidii をまとめて「larger reniform caruncles」と表現する。一方で FNA の計測値では、E. dentata の種阜は 0.4–0.6mm、E. subilsiae の 0.4–0.5mm とほぼ同じ域にあり、明らかに大きいのは E. davidii の 0.9–1.1mm のみである。本記事はこの違いを消さず、Mayfield 2024 本文の比較表現と FNA の計測値の両方をそのまま残す。判別の作業軸としては、FNA の計測値を優先する。

三郷10粒との比較

三郷で拾った成熟種子10粒を、上の三種の記載と並べる。

埼玉県三郷市で採集した Euphorbia davidii 相当個体の成熟種子9粒を、青い5mm方眼紙上に並べた俯瞰写真。中央下の一粒に淡色の種阜がはっきり残っている

vs E. subilsiae:三郷の実測は2.4–2.7 × 2.2–2.5mm、長さ/幅約1.05で、ほぼ等軸に見える。一方、E. subilsiae は2.7–3.1 × 2.0–2.4mmで、全体形は oblong-ovoid、narrowly pyramidal と記載され、種阜幅も0.4–0.5mmの小さな U 字形 umbonate である。三郷10粒は、E. subilsiae の記載形態とは整合しない。

vs E. dentata:三郷の種子は転がすと角張った稜が現れ、断面は四角形に近い。表面彫刻も細かく均一に並ぶというより、突起の大きさと配置が不規則である。FNA の E. dentata は断面が rounded、表面はより均一で鋭く彫刻され、背側の横畝を欠くと記載されている。加えて種阜も FNA の 0.4–0.6mm に対し、三郷は0.7–1.0mmと大きい。断面という質的形質と種阜幅という量的形質が同じ方向に外れる。したがって FNA の E. dentata の記載とは整合しにくい。

埼玉県三郷市で採集した Euphorbia davidii 相当個体の成熟種子1粒を、直径20mmの1円硬貨と並べた側面接写。種子の稜線が角張って見え、断面が四角形に近いことがわかる

vs E. davidii:三郷の長軸2.4–2.7mm、短軸2.2–2.5mm、長さ/幅約1.05、角張った断面、不規則に配置された低い疣状の表面彫刻、種阜幅0.7–1.0mm。FNA の E. davidii の記載は長軸2.4–2.9mm、短軸2.2–2.9mm、broadly ovoid で about as long as wide、断面 angular、low-tuberculate で tubercles は不規則配置、種阜0.9–1.1mm。種子寸法、全体形、断面形状、表面彫刻は記載と整合し、種阜幅も記載範囲と一部重なる。

埼玉県三郷市で採集した Euphorbia davidii 相当個体の成熟種子7粒と、種子が離脱した直後の裂開した蒴果殻および未裂開の緑色蒴果の超接写。種子の表面彫刻と種阜、蒴果内壁の質感が同一視野内に写り込む

現時点の同定

以上から、今回観察した三郷個体の成熟種子10粒は、比較した3分類群のうち Euphorbia davidii の記載形態にもっともよく一致した。

これは「埼玉県で初めて見つけた」という話ではない。

日本国内の既存標本を網羅的に調査したわけでもないし、その新規性を調べることを目的にもしていない。

ただ、

  • コバノショウジョウソウだと思っていた草を見ていた
  • 少し引っかかった
  • 種子が成熟するまで待った
  • 落ちた種子を拾った
  • 転がした
  • 測った
  • 途中で頼っていた蒴果表面の判別軸を、分類学的記載に戻して自分で外した
  • それでも種子形態の一致は残った
  • Mayfield 2024 の新種記載を読み、対抗候補として E. subilsiae を加えて並べ直した
  • そのうえで、記載と並べた

すると、最初につけていた名前とは違うところへ着いた。

その記録である。

なお、染色体数の確認、電子顕微鏡による種皮微細構造の観察、DNA 情報の確認は行っていない。画像による寸法測定は、実測器具による測定ほどの精度を持たない。したがって本記事の「一致した」は、比較した成熟種子形質の範囲での一致であり、分類学的な確定同定ではない。

次に見る

9月20日には、三郷とは別に観察している北戸田の個体群も見る予定でいる。

同じなのか。違うのか。まだ分からない。

だから、また種子を見る。

埼玉県三郷市で採集した Euphorbia davidii 相当個体の成熟種子群を、直径20mmの1円硬貨と並べて5mm方眼紙上に配置した俯瞰写真。種子1粒の大きさが硬貨と比較して視認できる

参考文献

  • Mayfield, M. H. 2024. Euphorbia subilsiae (Euphorbiaceae), a new species from Argentina. Darwiniana, nueva serie 12(1): 162–169. DOI:10.14522/darwiniana.2024.121.1237(書誌メタデータには subilsieae との綴りも流通しているが、論文PDFタイトルページ・Abstract・新種記載行はいずれも subilsiae
  • Subils, R. 1977. Las especies de Euphorbia de la República Argentina. Kurtziana 10: 83–248.
  • Subils, R. 1984. Una nueva especie de Euphorbia sect. Poinsettia (Euphorbiaceae). Kurtziana 17: 125–130.
  • Marchessi, J. E., Subils, R., Scaramuzzino, R. L., Crosta, H. N., Eseiza, M. F., Saint André, H. M. & Juan, V. F. 2011. Presence of Euphorbia davidii Subils (Euphorbiaceae) in Buenos Aires Province: morphology and anatomy. Kurtziana 36(1): 45–53.
  • Mayfield, M. H. 1997. A systematic treatment of Euphorbia subg. Poinsettia (Euphorbiaceae). Ph.D. Dissertation, The University of Texas at Austin.
  • Flora of North America vol.12 – Euphorbia davidii
  • Flora of North America vol.12 – Euphorbia dentata
  • EPPO Global Database – Euphorbia davidii (EPHDV)
  • Montana Field Guide – David’s Spurge

コメント

タイトルとURLをコピーしました